「ある日、同じクラスの女の子がさ、このベンチで泣いてたんだ。俺、まだ子供で、慰めたかったけど、なんて声かければいいかわからなかった。とりあえず隣に座って話を聞いたんだけど…」

「けど?」

柳瀬がこんなにたくさん喋るとこ初めてみたかも。

「泣いてる理由が、『友達に絶交するって言われた』ってことらしくて…。しかも、人見知りのせいで友達がなかなか出来なくて、唯一の友達だったらしい。俺、どうしていいかわからなくてさ…。『俺が友達になる!』って言ったんだけど、1ヶ月くらい経って、親の都合で引っ越すことになったんだよ。急なことで、別れの挨拶すらまともに出来なかったんだ…。」

「そんなことが…」

「すげー心残りで、高校入試のときに親説得して、ここの学校受けたんだ。この町の人は、だいたいこの高校に入学するって知ってたから。そして入学したら、同じクラスにその子がいてさ、ビックリした。すげー綺麗になってんの。でも、相変わらず友達はいなくてさ。放っておけなくて、告ったんだ」

「…え?」

「まだ気が付かない?夏川のことだよ」

そういえばそんなことがあった気がする。あの頃とは声も髪型も身長も全て変わってしまったから気付かなかったんだ。確かに私は、泣いていたときに同じクラスの男の子と一緒にいた。そして、そのあとも毎日この公園で遊んでたんだ。ある日、男の子が来なくなって…。そして泣いた。次の日、その男の子が転校したことを知ったんだ。私がいつも泣いててウザかったから転校したんだってそのときは思い込んでた。だから泣かないって誓ったんだっけ…。

「柳瀬、私全部思い出したよ。…私ね、あのとき柳瀬が好きだったんだよ」

「え、ええ!?そうだったのか…」

「うん。ていうか、告白したんだよ。でも、柳瀬は友達としての好きだと勘違いしたみたいでさ」

「…マジか。昔の俺馬鹿やろう」

柳瀬が下を向いて眉間に指を当てながら呟く。そして、少し経ってから私の目をじっと見た。

「もう一回言う。俺、夏川が好きだ」

手を膝の上で握り締め、ゆかりの返事を待つ。

「…私も好きだよ」

「本当に?」

「この話の流れで嘘は有り得ないと思うよ?」

ゆかりは柳瀬をじっと見る。

「良かった…。…夏川、ごめん」

「え、何が…」

柳瀬の握り締めていた手がゆるんだ。そしてゆかりの肩を掴む。

「…んっ!?」

ゆかりの唇と柳瀬のそれとがそっと触れ合った。