いなくなった筈であった。そして今なら、体を執拗に触る手を除けることもできる。 しかし、相手が。 帝。人の世の、至高の権力者である。抗うことは、人としてできない。 「…!」 帝の手が、紫青の抜き身を掴んだ。 人か。自分は天狗であろう。 清青は紫青に自問するが、答えとして浮かぶのは、実原の隆行、芳子、つまり自分を育てた者の顔。 屈辱を味わいながらも、どこか冷静な目で己を眺めているのは、やはり天狗だからか。