赤く大きな天狗。現れた瞬間は、その纏う空気の重さに紫青は身を潰されかけたが、天狗の手が紫青の額に触れると、その圧は消えた。そして芽生えた自我。

「……吾が仔よ」
「父様……」
己は天狗の血を引いているのだという自我。

ああ、この赤く大きく強い、天狗という存在。紫青は憧れた。
「紫青……。そうか、では名を授けよう。吾の息子としての証だ…」
 清青、という名を。

 翌日の儀、紫青は新しい名を受け取ることを拒んだ。自らには、実父より授かった名が在る。これ以上の名は、いらない。
 そして名付けられた。真の父から授けられた名、セイジョウの読み方を変え、キヨハル。

紫青は変わった。
見目の麗しさは一層増されど、姿凛々しく溌剌とし、弱小の感は払拭された。淫らな心を以て近づく男はいなくなった。