「まだ若いのに、そのようなことを言うとは。中納言が悲しもう。して、豊備へは行ったことはあるか?」
「豊備、はい。ございます」
「滝があるだろう」
 滝。
「大きな滝が」
 氷魚と会った、滝が。
「はい」
 その返答を聞いて、帝は命じた。
「そこに人魚がいるという。捕らえて来い」

「人魚…」
 紫青は表情の出ないよう努める。
「左様。体の上半分が美しい女、下半分が魚だという」
 氷魚の事ではないか。
「見たい」
 紫青は答えない。
「どうした、紫青。出来ぬか」
「…噂だけ、となると…」
「出来ぬか」
「難しいかと」
「ほう」
 嫌な気が、紫青の体を貫いた。
 何だ。