「と言ったら?」
「奴を殺します」
 如何様にもできる。

「いいえ、と言ったら?」
「私を嘲っておられるのか?」
 流澪は声を荒げる。
「私はあなたを好いている。氷魚様。しかしあなたは清青という化け物を好いていらっしゃる」

 何よりも。
「我々一族の大切な姫御を化け物には差し出せない」
 生まれついての地位。自分一つで勝手なことはできないのは重々承知していたのに。
 流澪は声をひそめて続ける。

「私は、長との、乃ちあなたの兄上とのことと、清青のとのことを両方掌握しております」
 ささやかな脅し。
「もしこの手を開いたら、あなたは何処へ行くのですか、氷魚様。此処には居られません」
 氷魚は顔を背けた。

「…こわい顔」
「氷魚様」
 流澪の中で、何かが変わって行く。
「私に、何をしろと?」