翼のない天狗


「返して下さい…」
 何時入ったのか。清青の鴉面を顔の前にかざしている。
「嫌です」

 流澪は氷魚に言う。
「その清青という奴を、少々調べました。天狗でもなく、人間でもない」
 氷魚は流澪を睨むように見たが、流澪の表情は面の向こうで解らない。

「男とも女とも解らない面立ち、藤紫の瞳に狐色の髪。何ともつかない、奴は化け物ではないのですか」
 淡々と言の葉を連ねる。

「いいえ」氷魚は頭を振った。

「かの人は、私…」
 その体の温かさ。
 氷魚の顔が穏やかさを映したのを流澪は見た。

「…清青を、奴を好いていらっしゃるのか?」