翼のない天狗


 上の仔が言う。
「母上、父上は…」
「父上は一族の長です。とてもお忙しいのです、おわかりになりなさい」
「はい」「う…でも」
 頬に一つの細貝が埋め込まれている下の仔は言う。
「寂しいです」
「そうね…」
 母親は仔供を抱きしめた。 



 ない。

 その箱以外に仕舞った場所の心当たりはない。

「ない…」
 氷魚は独り言ちた。

「何が、です」
 それに答えるのは。
 氷魚は顔を上げる。