「あやつら」
 清青が言う。深山もそれに従い、二人を見た。
「一人は女だ」
 二人とも男の旅装束である。
「ほう駆け落ちか」
 楽しそうに深山が言う。この烏天狗は、人間の情やら色恋沙汰を見るのを好む。

「つまらないものだ」
「何がさ、清青。彼奴ら、今時分に山中にいて、今宵はどこに宿すると思う。カカカ、面白いものが見られるぞ」
「下らぬ」
 そう言うと清青は立ち上がり、また梢へと跳んだ。

「どこへ行く。都か」
「たわけたことを言うな。やっと山へ来たというのに一日にして帰れるか」
「ならば、明日こそ豊備へ行くからな」
 豊備とは山を五つ越えた先の大きな瀧のある国だ。

「深山、お前まだそんなことに」
「行くからな」
 強く言われ、清青は適当に相槌を打った。そして友と別れる。

 顔赤く、鼻長く、翼と神通力を持ち、飛行自在で手には羽団扇。それを大天狗と言う。天狗に、なりたい。