「氷魚様!」

 無論、人魚にも雌雄の差はある。嗅覚は同等に秀でるが、雄魚の方が泳ぎが速い。
 流澪は氷魚に後ろから抱きつく形になった。柔らかいが程よい弾力のある滑らかな肌。さらさらと手を滑らす布。細い腰。

「どうして逃げるのです」
 抑えていなければならなかったものが、関を切る。
 骨が砕けるような力を込めて抱く。僅かに弱め帯に手をかけ、解く。

「……っ」
「セイジョウ、とはあの鴉面の持ち主でしょう」
 手は氷魚の衿を侵す。強く押さえられているので氷魚は抗うにも抗えない。
「なぜ……それを」
「あれは山のもの、いくら匂いが薄くてもここではよく香る、氷魚様」