氷魚は言葉を飲んだ。そこにいたのは、赤い肌に尖った鼻、背中の翼、
「深山、とかいう天狗。どうしてここに」
 深山がいる。囲われた中にあぐらをかいて座り、出された菓子を食っていた。

「溺れて、運よく死なずに落ちて来たのです。氷魚様、」
「何で俺の名前を…?」
 それが聞きたい、と流澪も頷く。

「清青様が、そう呼んでおられました」

「「清青様」」
 重なったのは、深山の驚きの声と流澪の疑団の声。流澪の意中を察し、氷魚は身をすくませ、顔を伏せてそこから泳ぎ去る。

「山人よ、」
 事態が飲み込めない深山に流澪が言う。が、顔はそちらを見ていない。
「そこの流れがわかるか。足下の着物が僅かに流れているだろう、その流れを伝い、去れ。京の賀茂に続いている」
 言い終わるや否や流澪も水牢を去った。