「父様」

 枯れた巨木。清青坊の父、清影坊はそこに住まう大天狗である。

「おう清青か」
「父様、先頃の話はどうなりましたか」
「話、とな」
「私を、本物の天狗に」
 清影は赤い巨体を揺らして高く笑った。山が震える。

「清青、天狗の仔は天狗であろう」
「しかし私は」
「山をも越える脚を持ち、多少なりとも神通力を持っておる。それでお前は天狗以外の何者だと言うのだ」

 清影は羽団扇を扇ぎながら、風の中に身を隠した。その朗笑を残して。

「父様」

 清青はそこに残った風を見上げた。唇はきっと結ばれて何も言葉を発さない。やがて、踵を返し、清青は空を歩き始めた。