「何をしていらっしゃるのですか…こんなところへ従者もつけずに」
「冥王寺に待ち人がおる」
 着いてくるな、と目が言う。
 冥王寺、そんな廃れた寺に何がある。
「御台様には何と…」
「母上にはそのまま伝えれば良い」
 太助に踵を返し、再び歩き始める。
「紫青は冥王寺におる、と」

 薄暗い堂に小さな蝋燭を燈す。名も無き彫師の残した仏像は静かに遠くを見ている。
 読経の声が坦々と続く。

 ふ

 蝋燭の炎が消えた。
 清青は半開きであった目を開け、読経を止めた。
「父様」
 背後に感じるは、大天狗の尋常でない存在感。