翼のない天狗


 月夜。

 遠くで梟が鳴く。
 物の怪の蠢く音が聞こえる。
 開いた手の平。掴むものは何か。
 握り締め、闇を睨みつけて清青がこぼす。
「私は、天狗だ…」


 月の光は水に差し込み、その筋だけがほんのり明るい。ゆっくりと動いて、それは氷魚の鰭をその懐中に入れる。
「魚のヒレ…」
 掌を見つめる。
「人の手…」

「私は、何なの…?」