翼のない天狗


 そして氷魚は清青に顔を向け、困った笑みを作った。
「刀をお納め下さいませ」
「しかし、友の魂を抜いたであろう」
 クス、と氷魚は笑う。
「それはあの天狗様が私に乱暴しようとしたから。あなたは、」
 訴えるような、願うような眼。
「そんなことはいたしません」


「匂う、か」刀を仕舞った清青は、氷魚の傍らにしゃがみ呟いた。
「えぇ、人間の匂いがいたします。香木のにおい、布や土や脂のにおい」