事実、実原の御台は怒っていた。ただ一人の子、紫青。家存続のためにも、早く身を固めることを父母共に望んでいるそうだが。
「父上の子ではないと言うのに」

 ドドドドドド

「清青、やはりヒトとしては暮らさぬのか」
 友の問いに、さらと答える。否。

「人間はつまらぬ生き物。私はこの半分の天狗の血に…」
「しかし、天狗としても暮らせまい」
 刹那、清青の動きが止まる。藤紫の瞳が、赤い天狗を見る。

 黒鳴が深山の肩から離れた。
「すまん……言い過ぎた」
 深山は背中の翼を羽ばたかせ、瀧を越え、山の向こうへ飛んで行く。

《カカカ、彼奴、妬いておるわ》
「何故」
《わかららぬか》
 黒鳴も羽ばたき、空を行く。
《深山があのような美しい女を抱くことがあると思うか?お前の父殿は運が良かったのだ》
 限りなく人間に近い姿なのだから抱ける女は抱いておけ、と。