翼のない天狗


「おったおった」
 深山と黒鳴が瀧の下へ降りてくる。

 ドドドドドド

「なんだ」
《何故抱かなんだ》
「そうじゃそうじゃ」
「下らん」
《あれだけ美しい女、そうは居らぬ。それに殿上人の子、身分も申し分ない》
「人間のようなことを言うな、カラス」

 清青は瀧から出る。肩に鼻をつけ、匂いを嗅ぐ。
「やっと消えたわ」

 髪をまとめ、着物を纏う。
「今頃、母上はさぞお怒りであろうな」