「さ、行くなら早く行こう。母上に見つからぬうちに」
 さほど乗り気ではなさそうだ、と太助はこっそりとため息を吐いた。


 未だ見ぬ
 花のいかなる美しさ
 我がまつがさね花を飾らん


「随分と単純な歌でございますね」

 女の世話係が、呆れたような感想を述べる。うら若い主は、頬を赤く染めて笑う。ありとあらゆる花を取り並べたよりも美しい、とその父は豪語して回っているが、あながちそれは過言ではない。
「いいえ、真っ直ぐな歌ですわ。早くお会いしたい……」
 噂では、光輝くような空気を纏っている、と言う。どんな宝玉よりも美しい瞳を持っている、と言う。