平安の都、実原隆行が屋敷前――

 煌々と燃える篝火。約束の時は刻々と迫る。

 カァ。

 夜中に鳴く烏に、ふと下人達が気を取られたとき、突如この家の御曹司が現れた。

「紫青様」
「よう」
 紫青は二日ぶりにその顔を見せた。

「よう、ではございません。どこにいらしたのですか。旦那様も奥様も大変心配なさっています」
「そう怒るな、太助。私は戻った、それで良いだろう」
 太助は腑に落ちない顔をしながら尋ねる。
「お召し物は」
「女の元へ行くのに冠をすることもあるまい。これでよい」
 単は萌葱に紫の松襲、狩り衣は藍。象牙色の袴で全体の色彩を整える。