翼のない天狗

「大殿(おとど)、お目覚めですか」
「ああ」
「中宮様がお呼びです、どうしてもお父上に会いたいと」
 思索したかったが、中宮に呼ばれたとあれば参らねばならない。娘といえども中宮、里下りしていて今はこの屋敷の自室にいる。有青は立ち上がった。

「お父様」
 中宮は美しい黒髪を震わせていた。
「いかがしたのだ」
「三の宮が、泣いているのです」
 見ると、三の宮は体を小さく丸めて泣きじゃくっている。
「宮もまだまだ幼子、泣くこともあろうに」
 中宮は顔を上げた。祖母、つまり有青の母の花の君を偲ばせる麗しい顔付きだ。戸惑いが覆っているが。
「大爺様が亡くなったと、言うのです」

 おおじじさま。
 その言葉に胸を突かれて、有青は何の言葉も出ない。
「宮様」
 ようやくそれだけ言うと、三の宮は体を起こして床を這い、有青の指貫袴に突っ伏してまたしくしくと泣く。
「いかがなされたのですか、大爺様とは」
 あやすように、ゆっくりと言葉を並べる。まだ動揺している。

「大爺様は、爺様の、父様に、ございます」
 ひっく、ひっくと息を切らして、三の宮はたどたどしく答えた。
「大爺様が、麿の、夢にござってな、麿の手を握るのです。金色の、御髪を結って、爺様と同じ、色の目で、優しく笑うのです」

 清青だ。

「大爺様は、宮様に何か申しましたか」
「……己のために」
 三の宮は有青の顔を見て、言い直した。

「己のために、生きてはなりません。主上、国の要でございますれば」