翼のない天狗

 ゴオオゴオオ

 瀑布は変わらず轟音を立てている。空は白み初めていて、やがて日が昇るだろう。
 高い木の枝に氷魚を座らせ、深山は清青を背負い直した。少し送れて、有青が到着する。
「遅いな。良いものを食い過ぎなんだ、もう少し身を軽くしな」
 深山の軽口は聞き流し、有青は改めて豊備の滝を見下ろした。
「恐ろしいほどの立派な瀧だ」

「懐かしいな、氷魚よ。始まりはこの滝であった」
 しみじみと深山が言うので、ふふ、と氷魚は声を立てて笑った。
「どこかの愚かな天狗が、人魚に会わんとして、魂を抜かれましたね」
「そう言うなや。しかし氷魚、俺は、お前たちを結びつけたようなものだ。この滝に清青を誘い、お前に魂を抜かれてな」

 ゴオオゴオオ

「有青殿」
 氷魚は有青に腕を伸ばした。倒れそうになるところを有青は支え、同じ枝へと移る。
「お願いがあります」
 都の女とは全く違う美しさに引き込まれそうになる。焦点の合わない常盤色の双眸に、己の姿が映っていた。
 氷魚は有青の顔に手を当てて、その形を探る。そして、右手が瞼の上に辿りつくと、手は止まった。

「目をいただきたいのです」