もとより限られた光しか届かぬ水の中で生まれ育ったのです、慣れてしまえば目が見えぬことをさして難儀とは思いませんでした。
地上での清青様との暮らしは、それは穏やかなものでした。清青様はよく山を歩きました。跳ねていくことも出来ましたが、歩くほうが好きなのだと。私もときおりお供いたしました。清青様は私の手をとり、様々なものの名を教えてくださいました。
夜は月明かりの下で、清青様はよく彫り物をしていました。木の香りがして、何も言葉を交わさずとも心地よいときでした。小刀一つで観音様を彫り上げては、私に握らせて、そして川に流していました」
「……もしや、我が母の弔いか」
有青は眉をいびつに曲げた。どのような表情をすべきかわからない。
「半分は、そのお心持ちでしょう」
「して、あとは」
「これだ」
酔いが回ってきたのか、深山の言葉がたどたどしい。
「川、上から、流れてき、た木仏を、川下の人、間が拾う。人間は、それを有り難が、り、神が仏か、ある、いは山に棲む天狗、が授けたの、だとおも、うだろう。する、と人間た、ちは、米や、酒や、珍、味や質のい、い織物を山、の入口へ、置くんだ。供える、と言って、もいいい。あ、とは俺、が酒樽をと、りに行く」
親父が残したもの、とはこういう意味か。有青は手元の杯を見た。朝廷や九重に献上しないような上等な酒があるのだ。山にすまう天狗への畏怖は朝廷の支配を超えるのだ。
地上での清青様との暮らしは、それは穏やかなものでした。清青様はよく山を歩きました。跳ねていくことも出来ましたが、歩くほうが好きなのだと。私もときおりお供いたしました。清青様は私の手をとり、様々なものの名を教えてくださいました。
夜は月明かりの下で、清青様はよく彫り物をしていました。木の香りがして、何も言葉を交わさずとも心地よいときでした。小刀一つで観音様を彫り上げては、私に握らせて、そして川に流していました」
「……もしや、我が母の弔いか」
有青は眉をいびつに曲げた。どのような表情をすべきかわからない。
「半分は、そのお心持ちでしょう」
「して、あとは」
「これだ」
酔いが回ってきたのか、深山の言葉がたどたどしい。
「川、上から、流れてき、た木仏を、川下の人、間が拾う。人間は、それを有り難が、り、神が仏か、ある、いは山に棲む天狗、が授けたの、だとおも、うだろう。する、と人間た、ちは、米や、酒や、珍、味や質のい、い織物を山、の入口へ、置くんだ。供える、と言って、もいいい。あ、とは俺、が酒樽をと、りに行く」
親父が残したもの、とはこういう意味か。有青は手元の杯を見た。朝廷や九重に献上しないような上等な酒があるのだ。山にすまう天狗への畏怖は朝廷の支配を超えるのだ。



