一糸纏わぬ氷魚に対し、流澪は烏帽子を被り、単と狩衣を纏っている。

「氷魚様、今までどこにいらっしゃったのですか。満の日は石牢に入るように、と長に固く言われていらっしゃるのでしょう」
 氷魚は目を逸らす。

「それに、また着物を召されないで」
「流澪殿」

 どうしても、氷魚の体に目を遣ってしまう、流澪のその目線。氷魚にとって、見られるだけならば何とも無い。
「水に生ける物に着物は不要です」
「しかし氷魚様、我々は人魚。稀有な存在であることにもっと誇りをお持ちに……」

 氷魚のあまりに悲しそうな目に、流澪の言葉が止まった。

「それならば、私は、小さな魚に生まれとうございました」
 流澪は何も返せず、一礼して部屋を去った。