翼のない天狗



 氷魚。
 ああ、おぞましい光景。
 叶うことなら、汪魚の手から氷魚を奪い、白の滝へ連れて行きたい。
 
 氷魚、氷魚。
 清青は声を上げるが、それは水の中に溶けて消えてしまう。氷魚からの返事はない。
 已む無く、術を閉じる。


「望んだものを、お見せできたでしょうか」
 倒れた水王の体を抱き起こし、魂の玉を手に取る。清青に背を向けたまま、氷魚は尋ねた。力ない声。
 清青は氷魚の手を握った。

「以前、」
 絞り出すように、言葉を選ぶ。氷魚がこちらを見ない。
「父母が怪魚に喰われた、と」
 父、母。
「今し方、見たのは、そなたの父と、血の繋がりのない兄と、姉だ」
「ええ」