「氷湟様」
やけに落ち着いた、はっきりとした声がして氷魚は振り向いた。
「兄上。兄上、どうか手伝って。姉様のお体を」
汪魚は氷魚の肩を優しく抱くと、氷湟を咥えたままの鯱の顔に槍を突き刺した。それは口の肉を貫き、氷湟の体までを串刺しにする。氷魚は眼を見開き、汪魚の手を振りほどいた。
「なんということをするのですか。これでは」
「これで良いのですよ、氷湟様」
氷魚の顔をまっすぐに見て、汪魚は穏やかな表情で氷湟の名を呼んだ。
「兄上、私は」
「これで、あなたの悪しき実は二度と浮かんで来ない。鯱の腹の中にいる父上と共に、やがて腐ってこの海の藻屑となって消える。私たちは勝利した。それを喜び、改めて歩み出しましょう」
「兄上」
そう口にすることしかできない。こうしている間にも、鯱は氷湟と父を道連れに海の果てへと沈んでいく。
「氷湟様」
汪魚の左手が、氷魚の右手首をかたく握った。そして力強く引き寄せ、その腕に抱きいれた。
「兄上、どうかお放し下さい。姉様のお」
お体を救いたいのだ、と言おうとした唇を、汪魚のそれが塞いだ。振り払おうにも、体の自由が利かない。何とか動かせる瞳で周りを見れば、赤い水はだんだんと晴れ、その先に何者かの影を見た。
汪魚の接吻は続く。口腔で蠢く異物が兄の舌であると解ると、おぞましさに氷魚の体は硬直した。何者かの影が近づいてくる。その、幼な友達の流澪と目が合うと、氷湟の死を悼むのとは違う、涙が氷魚の頬を伝った。
やけに落ち着いた、はっきりとした声がして氷魚は振り向いた。
「兄上。兄上、どうか手伝って。姉様のお体を」
汪魚は氷魚の肩を優しく抱くと、氷湟を咥えたままの鯱の顔に槍を突き刺した。それは口の肉を貫き、氷湟の体までを串刺しにする。氷魚は眼を見開き、汪魚の手を振りほどいた。
「なんということをするのですか。これでは」
「これで良いのですよ、氷湟様」
氷魚の顔をまっすぐに見て、汪魚は穏やかな表情で氷湟の名を呼んだ。
「兄上、私は」
「これで、あなたの悪しき実は二度と浮かんで来ない。鯱の腹の中にいる父上と共に、やがて腐ってこの海の藻屑となって消える。私たちは勝利した。それを喜び、改めて歩み出しましょう」
「兄上」
そう口にすることしかできない。こうしている間にも、鯱は氷湟と父を道連れに海の果てへと沈んでいく。
「氷湟様」
汪魚の左手が、氷魚の右手首をかたく握った。そして力強く引き寄せ、その腕に抱きいれた。
「兄上、どうかお放し下さい。姉様のお」
お体を救いたいのだ、と言おうとした唇を、汪魚のそれが塞いだ。振り払おうにも、体の自由が利かない。何とか動かせる瞳で周りを見れば、赤い水はだんだんと晴れ、その先に何者かの影を見た。
汪魚の接吻は続く。口腔で蠢く異物が兄の舌であると解ると、おぞましさに氷魚の体は硬直した。何者かの影が近づいてくる。その、幼な友達の流澪と目が合うと、氷湟の死を悼むのとは違う、涙が氷魚の頬を伝った。



