翼のない天狗

「氷魚の言った通りね」
「何も言わないで、姉様」
 見ているのも辛い。氷魚は氷湟の傷口に手を当てて、いつか清青にしたように、その傷をふさごうとするが、千切れているのだ、どうしようもない。
「掟を、破ったものには、罰を。でもね、あなたも、いつか、」
「姉様」
 血を流しすぎだ。氷魚の涙は、どれだけ流れようとも命には関わらないのに。

「いつか、愛しいと想える人ができたら、わかるわ。どうしても会いたいのよ」
「姉様に会わせたい、だから」
 氷湟の瞳は、光を失いつつある。既に、氷魚を見ていない。
「残念ね。私は行かなくては。その人に、会えないわね。まさか、流澪かしら」
「姉様。私には、姉様より大事な人なんていない」
 その言葉を聞いて、氷湟は満足そうな笑みを浮かべた。

「可愛い子。私の氷魚」

 そう言って、ゆっくりと瞼を閉じた。もう、開かない。

「姉様、姉様」
 ねえさまねえさま、と呼び続ける。鯱の歯に貫かれた体を開放させようと、氷魚は鯱の口をこじ開けようとするが適わない。