翼のない天狗

 氷魚は武器といえば、小刀だけを左手に構えている。ほかの三人は、長槍や太刀を構え、鯱との間を少しずつ詰めていた。氷魚の姿を既に認めていたが、視線も動かさず、氷魚への声も発しない。氷魚が鯱に気付かれぬために。

「もう良かろう、北の海の主よ」
 氷湟が、槍を構えたまま鯱にいう。
「おのれ、これほどまでに我々の仲間を倒し、友を食い破りて、これ以上如何するのだ」

 鯱は、不気味に笑った。
『腹が減るから喰う。それだけのことよ、人魚の姫』
 氷魚は名を呼ばれたか、と一瞬身をすくませた。鯱の注意が氷魚にいかぬよう、すかさず氷湟は返答する。
「されど、おのが縄張り、領分があろう」
『同じ味に飽きたのだよ』
 さも当然、と鯱は笑った。
『それに、黒髪の人魚を食えば命が延びるとか。味はさして旨くはないが、まあ、癖になる味よ』

 氷魚は、手前の鯱にじわりじわりと近寄り、右手に念を込める。意を決し、右手を伸ばし、鯱の心の臓を突いた。