翼のない天狗

「ひ……めさ……」
 息も絶え絶えに、老年の人魚が氷魚に気付き、手招いた。
「じいや」
「ご無事で……か、氷魚様」
「話してはだめ、血が……」
 氷魚は涙ながらに制すが、老いた人魚は話し続けた。

「あと……あと二匹です」
 あちらに、と、手を動かし、方向を示す。
「お父上と、長と、氷湟様が……」
「お爺様」
 離れたところからの声。氷魚が顔を上げると、やはり血にまみれた、流澪。

「……流澪よ、生きていたか」
「お爺様」
 流澪が老人の傍らにつくのを見て、氷魚はそこをゆっくりと離れた。

「氷魚様」
「流澪殿、じいやのこと、頼みますよ」
 流澪はしっかりと頷いた。
 氷魚は示された方向へ進む。

 二匹の鯱と、父親と姉、義兄が対峙している。潮は向こうからこちらへ流れている。氷魚は気配を消し、そっと手間の鯱に近付いた。