翼のない天狗

「貴方がそれを所望するなら」
 氷魚はその笑顔のまま言う。
「そうでしょう?」
「氷魚……」
「確かに恐ろしい思い出です。けれども……だからこそ、私だって誰かに伝えたかった」

 心をえぐられるような、そういう痛みがある。それでも、伝えたかった。知って欲しかったのだ。清青に。

「水王殿、」
「はい」
「あなたのお母様は、とても美しく、聡明な方でした。その最期は、私を守るために命を落としたのです。私は、姉様にはこれからさきもずっと、頭をあげられない……私は姉様が大好きよ」
 言葉の終わりを、水王は聞いていない。氷魚の腕の中に力なく崩れている。氷魚の右手には、深い青色の玉がある。




 辺り一面を、赤い、靄のようなものが覆っている。靄――いや、血液。白と黒で塗り分けられた巨体がそこここに横たわる。そして無数の魚、魚の半身と人の半身をもつ者も。