翼のない天狗

 南へと泳ぐ。途中、幼い水王を連れた乳母や侍女の一団に会った。
「ああ、氷魚様。よくぞご無事で」
「みんなも無事ですか。良かった。向こうでは父様や長、男衆が鯱と戦っています。姉様も……残りました」

 氷魚が目を遣った先には、あどけない顔の水王がいる。氷魚は、水王の頬に埋め込まれた細貝を指でなぞった。じっと、その瞳を覗いた。
「どうしましたか。ここで立ち止まることはありません、さあ行きましょう。氷魚」
「母様」

 氷魚は振り返り、母の前に頭を垂れた。
「氷魚……」
「私はここで戻ります」
 ざわめき。周囲の女達が騒ぐので、水王の表情が陰っていく。

「私の右手には、魂を抜く力がある。これを使わねば」
「氷魚。氷湟が言ったことを忘れた訳ではないでしょう」
「もちろんです、母様。でも、私にしかできないことがあるはずです」