翼のない天狗

「母のことを教えてほしいと申したでしょう」
「そうでした」
 氷魚は清青の手を取り、水王の額へ遣った。不意をつかれた清青は、少し戸惑う。

「清青様、このこにも見せてやって下さい」
 そして己の額へ、もう片方の手を当てた。
「氷湟……姉様の、最期を」

 話を聞かぬ。我が強い。それ故に、一人で背負い込み、溜め込んでしまうのだ。
 瞼を閉じて術のかけられるのを待つ氷魚を見て、清青は目尻を下げ、口角を上げた。それから、その隣を見た。

「私の瞳を見よ、水の王」
 払暁の空の色を。





 寒い。
 闇の淵に足を下ろした清青は、思わず自分の腕をさすった。氷魚に会うために、冬の水中へも幾度か入ったが、それでもここまでの寒さは感じなかった。

 ――まだ幼かったけれど、ぼくも覚えています。この寒い水を。
 傍らから、水王の声。

 ――蝦夷よりも遥か北より、冷たい流れが押し寄せました。そう……かの海の生き物も連れて。
 氷魚の声。その声を聞くと、体がほっと温まるようだ。