翼のない天狗

 真っ直ぐな瞳を見つめ返す常盤緑は、細く輝いた。水の揺れが収まらない。細かく揺れ続く。

「氷魚様」

 氷魚は、すうと息を吐いた。すこし笑う。呆れたような、笑みだった。
「私にお客様が見えたようです。水王殿もお会いになりますか」
「たれに」

 水王は問うが、水王にもこの揺れは覚えがあった。懐かしささえある。

「しらてんぐ」
「ああ」
 秘密めいたその口ぶりに、水王は合点がいく。
「清青にございますね」
 このうつくしい叔母の、懸想人。



 水が、絶えず揺れている。清青が通ると、あるものは苦い顔をし、あるものは恒惚とした眼差しを向けた。
「怒っていらっしゃる」
 と、その顔を見るなり、氷魚は笑った。

「そうかも、知れぬ」
 清青は水面を見上げる。あの上で、刺すように浴びた視線と変わらないものを、ここでも向けられる。