翼のない天狗

「どうなさったのです」
「氷魚」

 ドドドドドド
 滝は絶えず、水を垂らす。そのしぶきが二人の体にも飛ぶ。

「今、私の顔を伝う水が、滝のものか、水の中で付いたものか、或いは汗かは解らない」
「ええ」
 清青は笑みを溢し、氷魚の頬を撫でた。

「そう、解らない。たとえば、あなたが泣いたとしても」

 しばらくの沈黙の後、氷魚はくすりと笑った。平手で水面を打つ。ぴしゃり、水が跳ね、二人の頬に別の水滴が付いた。

「お戯れを」
「なに」
「私は、自分のためには泣きません。泣いて……いえ」
 氷魚は言いかけて止めた。清青は続けるよう促すが、黙って首を振る。

「泣いても、何も変わらない。と?」
 氷魚は清青から視線を外し、小さく頷いた。