翼のない天狗

「御母上は何と」
 ――答えを聞くのが恐ろしく、また母様こそ気にされていたこと、伺うことは出来ませぬ。
「……そうか」

 清青は絞り出すように呟いた氷魚の声を聞きながら、消えていく光を見ていた。一度、氷魚の顔を見たかった。氷魚はまた、泣いているだろう。その涙を拭いたいと思った。




「そのような、歯の浮くようなことをおっしゃらないで」

 引き戻した意識。瞼を開けば、初夏の雨に打たれた後の葉のように鮮やかな双眸が、清青を仰ぎ見ている。

「あなたは私の心が読めるのか」
「私の心の奥ですもの、そこを支配するのもわたくし」
 苦笑の問いは苦笑で答えられた。清青は白天狗の力を閉じる。息を一つ吐いて、氷魚のいる水中に入った。

「清青様」
 白の滝の裏、この水は清青の背丈ならば足が着いて胸まで出るのだが、清青は頭まで潜っている。氷魚は、どうしたのかと水の中を見た。清青は氷魚が水に頭を入れたのを見ると立ち上がり、氷魚の腕を取って同時に水面へ顔を出す。