翼のない天狗

「さあ氷湟様、いきんで」
「しっかりなさい、氷湟様」
 氷湟は痛みに顔を歪める。周りには、侍女だろうか、女の人魚や魚が取り囲んでいる。

「あああっ」
 喉が潰れんばかりに叫ぶ氷湟を、氷魚は手を固く握って物陰から見ている。


 ――子を産んだことのない者が、出産の場に入ることは禁じられていました。

 見えている氷魚とは別に、氷魚の声がしている。清青は頷いて相槌した。

 ――掟を破った姉様を罵っておきながら、私は愚かな人魚です。姉様が心配でした、初めてのお産で難儀しているだろうと。

「あ、ああ」
「氷湟様、もう少しです。もう少し」
 励ます声が突然に変わった。歓喜に溢れた。

 氷湟は卵を産んだ。半透明の卵はニ尺足らずほどの大きさ。中には小さな人魚。

「瞳の、色は?」
 息も絶え絶えに氷湟は問う。
「みどり?」