氷魚を抱え、清青は百の滝に降りた。滝の裏の空間は、二人が語る場になっている。
「あれは豊備でのことだが、あなたは私に、私の頭の中に直接呼びかけた」
初めて会った日のことだ。
水の中で元の姿に戻った氷魚は思い出して頷く。
「そんなこともありました」
「あなたを侮っていた訳ではないのだが」
「誰かの全てを知り得るなんて出来ません。自分のことすら……解らないのに」
そういう言葉の端々にあなたの涙が見えるのだ、だから心の奥を知り、すくいたいと思う。口には出さず、清青は氷魚の頬に手をかけた。自分の瞳を見させ、もう一度、意識の中へ。
祈りの言葉が聞こえる。大勢。
「子が、生まれるのです」
闇の中、声はすぐ近くから。清青は振り返ったが闇の中、声の主――氷魚は見えない。
「姉様が兄上の子を産みます。父様は多くの者に祈祷するよう命じたのです」
「人と同じだな……」
「私は、姉様の部屋を覗きました」
小さな光が見える。そこへ、影がまた氷魚の形を為して向かう。



