翼のない天狗

「私は怒っているのですよ」
「なにを」
「見られたでしょう、あの子に」

 清青は氷魚に目をやった。恐ろしいものを見たような顔をしたまま、それでも目を反らさずに動かない。口が少し、開いている。


「婚礼の二日前のこと」
「ああ、あの時ですか。確かに見かけました、貴女に良く似た幼な君を」
「私のところから去る途中のあなたを見て、あの子は、こともあろうに、私に汪魚殿の話をしてきました。私はどれほど困ったことか」
 氷魚の顔からさっと色が引くのを清青は見た。氷湟と汪魚は、話しながらも営みを止めない。

「婚礼の日まで顔を合わせてはならないなんて、なんておかしな掟。それを私が律義に守っているとあの子は信じている。馬鹿な氷魚。私はずっとずっと、あなたをお慕いしていますのに」
「光栄でございます。氷湟様――」