翼のない天狗

「深山」

 その元へ降りる。

「深山、深山」
 深山の半身は水に入り、あお向けに倒れている。
 声をかけても返事がない。琥珀色の瞳は瞳孔が開き、耳を近づけても息が聞こえない。

「おい、深山」
 清青は懸命に友の名を叫ぶ。
 体を揺すり、肩を叩いても応えない。


 ふと滝の轟音が止んだ。

「その烏天狗、それ程に大事なのですか」

 ゴオオゴオオ

 再び轟音が響き渡る。
 清青は刀に手を置いて振り返った。
 背中にしていた瀧が真正面に来る。
 滝の手前、先ほど清青がいた岩に寄り掛かって、声の主は微笑んでいる。