「ほう?」
 帝のその声の裏に隠れている感情は何か。何かは解らないのに、何かが隠れているのは解る。
「近う」
 有青は居ざり、帝の方へ動こうとした。

 ひゅん

 とっさに有青は体を伏せ、その飛来物を避けた。

「錫杖……」
 飛んできた錫杖は御簾を突き破り、向こう側に刺さる。

「……」
 何という狼藉。無礼を承知で帝に声を掛ける。

「帝、お怪我は、大事は」
 ありませんか。と言おうとしたが口が動かなくなった。空気が重い。背中に大きな荷物を背負わされて居るような、そんな重みが有青にかかる。口はもとより、体を上げることが出来ない。潰されぬように肘を張るばかりだ。