つー、と氷魚の目から涙が零れる。清青は気付かない。深く抱きしめているから。
「…………」

 何かが聞こえたような気がして、清青は首を上げる。
「せ……いじょう……さま……」

 小さな声だが、それは氷魚の口から出た言葉。

「氷魚……?」
「せいじょうさま……」

 もう一度、よりはっきりと。
 同時に清青の腕の中、抜け殻も同然な氷魚の体が温かさを得た。
「氷魚……」
 清青は氷魚を抱きしめる手に力を加える。すると、それに応えるように氷魚の腕は清青の脇を抜け、背中を掴んだ。

「清青様」
 涙が溢れ出る。ずっと探し求めていた温もりは今、この手中にある。それを確かめるように、清青は氷魚を、氷魚は清青をかたく抱いた。