翼のない天狗

 清青は体を起こして振り返る。
 誰かが自分の上から覗いたのだろうか。しかし、こんな山奥の滝、辺りに人影はない。

 ……誰もいない。
 そんなはずはない。――深山はどこだ。

 清青は友の名を呼ぶ。
「深山、深山どこにいる」
 声を張り上げて、少し跳び上がる。

「答えよ、深山、深ざっ……」

 清青の視界の端。ごつごつした岩の陰に深山のものと思われる赤い脚が横たわっている。