己の左胸から魂を抜いたのだろうか。

 そう思わせるような様子で氷魚は、あった。
 目からは光が消えどこを見ているのかは定かではない。口は半ば開いたまま何も発しない。ただ無気力にたたずみ、呆然としている。

 すう、と清青の瞳は自身の藤紫に戻った。
「氷魚……」

 声は届いているのか。氷魚の肩に手を添え、自分を見せるように動かすが、がくりとしている。

「気を病んでしまったのです……」

 不意に声を掛けられ、清青は振り返る。そこにいた雌の人魚は丁寧に頭を下げた。
「私は、汪魚の妻、沙子と申します」
 腕に小さな仔供を抱えている。