「氷魚……様」
 深山を見送った流澪は、その後氷魚の元へ向かった。
 自分のしたこと、覚えている。ひたすら拒み続ける彼女を力尽で抱こうとしたのだ。

 鈴を鳴らし、流澪は恐る恐る氷魚の部屋へ入る。
 氷魚はゆっくりと顔を上げた。

「氷魚様……」
 泣き腫らした目で流澪を見る。幾筋もの涙の跡と、流れている涙。

「……何でしょう」
 喉から声を絞り出す。

 流澪は頭を深く下げた。
「……」

「本当に、申し訳ございませんでした」
 長年の間積もっていた氷魚への思いが、清青の登場によって顕わになり、嫉妬のこころが正気を奪った。汪魚に働きかけ、氷魚を自分の許嫁とした。氷魚の気持ちも考えず、一方的で身勝手な行動であった。
 今思えば、の話だ。

 だから、
「今更、何を謝るのですか?」
 と氷魚に言われても、流澪は返す言葉を知らない。
「一人にして下さい……」