ふ、と氷魚は息を吐いた。

「父上と、母上が亡くなった夜……」
 汪魚が青ざめる。記憶の欠陥、そこに当てはまる欠片は、妹を犯すという、禁忌。

「ひ……」

「長!」
 場の雰囲気を掻き乱す声。取り込み中だ、と誰かが制止したが、その伝令の人魚は聞かない。
「どうした」
 伝令は息を整えて言う。

「山から……」
 そこで唾を飲み込んだ。


「天狗が」