翼のない天狗


「では、その玉、頼みます」
 氷魚は水の中に戻ろうとする。

「その体でも水の中は自在なのか? 息などは」
「はい。水の世界で何かを口にすれば良いのです。深山様も平気な筈、あの時に……出されたものを召し上がりましたよね」
 そうか、と深山は口籠もる。

《ああ、氷魚殿》
 思い出したように黒鳴が言った。
《氷魚殿は、いくつになるのじゃ。人魚は、人とは命の長さが違うと聞いているが》

「私は……」
 少し考える。
「人で言えば、百と六十八年、生きてきました」

「……」
 深山の眼が開く。仰天。
《……》
 そんな深山を黒鳴が白い目で見る。