翼のない天狗

 泣く氷魚に、黒鳴が尋ねる。
《氷魚殿、その手にあるのは何じゃ?》
「……黒鳴、もっと言葉を選べや」
《煩い》
 深山をたしなめ、黒鳴は嘴を氷魚に向けた。

《氷魚殿》
 氷魚は手を開いた。深い藍を映す玉が握られていた。
「これを預かって頂けないでしょうか」
《これは》
「ある方の魂です。決して清青様のものではありません」
《魂……》「魂?」

 あ、と深山が声をだす。
「氷魚殿、以前俺のを」 
 豊備の滝で。
「はい……深山様が私に乱暴をしようとしたので」
《なるほど、話には聞いていた》