伊東くんを見上げると、彼も同じようにこちらを見ていた。
無言で、見つめ合う。
「俺はちゃんと知ってる。」
「えっ?」
「日和、」
だろ、といつもの低い、よく通る声で言った。だけど少しだけいつもとは違う。
いつもより甘くて、あったかい。
その声は、私の体の中に溶け込むように響いて溶けた。
視線を反らすことは出来ない。
「……顔赤いな。」
「だ、だって、」
男の人に名前を呼ばれることなんて、滅多にないのだ。もしかしたら、お父さんくらいかもしれない。
それにいつも小山と呼ぶ伊東くんに言われると、余計に恥ずかしい。
そう彼に伝えると、彼はおもしろそうに笑った。
「廣田もそう呼んでたろ。」
…確かにそうだ。廣田さんにも名前で呼ばれた。
……だけど違う。
伊東くんは。
伊東くんに名前を呼ばれると恥ずかしくて、そして、嬉しいのだ。
……伊東くんは、特別なの。

