繋がっているのは左手のみ。だけどそこから全身に向かって伊東くんの温もりが伝わるような、そんな不思議な感覚に陥る。
……どうしてだろう。
あの上司に手を握られた時とは明らかに違う。だって、あの時はすぐにでも振りほどきたかったのに。
今は、少しでも長く繋いでいたいとおもうなんて。
「あれでいいんだよな?」
「あ、うん。でも本当にいいの?」
彼が指差した先には、あの俳優さんが出ている映画のポスターが大きく張り出されていた。
いつもは真面目で、シリアスな役を演じることが多い俳優さんだが、今回は真逆のコメディーだ。
「何が。」
「伊東くん、他に観たいのないのかなって。」
「気遣うなって。俺は何でも楽しめるし。」
伊東くんはそう言って、少しだけ目尻を下げた。
「本当に?」としつこく聞く私に彼は小さく笑うと、じゃあ今度はあれがいい、とさっきとは反対方向に張られたポスターを指差した。

