彼が少し動いた。気配がした。
するとすぐに彼の大きな左手がこちらに向かってきた。かと思った矢先、その手は私の髪を一房取る。そうすると指で遊ぶようにそれを絡ませた。
「えっ、伊東くんっ……」
「……可愛いな。」
「かっ……」
「いつもと違うから。」と言いながらもまだ止めようとしない彼の手が、少しだけ耳に触れる。
……あぁ、顔がまた。
「デートだから?」
そう問いかける彼は少し笑っている。
いつか見た、何かを企んでいるような笑顔。
「ま、巻いたの。」
「うん、くるくる。」
仕事中はいつも、一つで固く結んでいる髪。だけどこんな日くらいは。
ゴムをほどいて、慣れないコテを使って巻いてみたのだ。
いつもとは違う髪型。
気付いてもらえないと悲しいけど、
いざ気付いてもらえると恥ずかしい。
……我ながら女心は複雑だ。
最後にその手で私の頭をわしわしと撫でると、彼はようやく元の体勢に戻したのだった。

