この位置からでは、運転席にいる彼の顔を見ることは出来ない。それが少し寂しく感じた。
……もう一度だけ、顔が見たいな。
休みが終わればまたすぐに会えるはずなのに、私は欲張りなのかもしれない。
自分のそんな考えに心の中で苦笑しながら、しばらく車を見つめていると、不意に運転席のドアが開いた。
「風邪ひくだろ。」
「……ごめんなさい。」
願いが叶った。怒られていることに反省もしないで、私はまた彼の顔を見られたことに喜んでいた。
それが表情に出ていたのかもしれない。
彼は困ったように眉を下げると、早く入れ、と私を促した。
それに小さく頷き、玄関の鍵穴にシルバーの鍵を差し込む。
その時にひとつ思い付いた。
また振り返ると、彼はまだこちらを見ていてくれた。
「……伊東くん、」
「何。」
「あのね、お願いがあるんだけど……。」
この時間に大声で話すと近所迷惑になってしまう。なので二人の声は、相手にだけ届くような小さな声だ。

