「花ちゃん」
「(……あ、)」
一瞬だった。
一瞬だけ、唇が熱を共有して。最後に、下唇を悪戯になぞるようにしてから離れた。
本当にいきなりで目なんか閉じる暇なくて。
唇に残る柔らかな感覚。不意に香る先生の匂い。ちりり、喉の奥が焼けるようだ。先生の触れる首裏も腰も、鼻の奥だって全部がおかしい。
……はまってしまいたく、なかったのに。
そこまできている涙に気付かない振り。ぱちりぱちり、と瞬きを繰り返して隠す。
「いまの、」
「kiss?」
「……っ、そんな流暢に言われても」
「何、もう一回しとく?」
残酷なまでに私を弄ぶ先生。相変わらず捕食者のような双眼で見つめられると、まんまと獲物と化した私は萎縮してしまう。なんて捕らえやすい獲物だろうか。
「いや、け、結構です!」
コーヒーの香ばしく僅かに苦い香りと、いつかと同じ先生のシャンプーと香水の香りが立ち込め漂う。
茜色に侵食されるこの教室で、冷めかけのコーヒーをまずい。と口に含み、不敵な笑みを浮かべる先生。
教師と生徒。
この空間は、私には些か刺激が強いらしい。
